2022.04.25
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リテラシーで投資は進むか
長期低迷が続く日本経済にあって着実に積み上がっているものがある。
家計の金融資産だ。日銀の資金循環統計によれば2021年末で2023兆円と初めて2千兆円の大台を突破した。
しかし、米国の金融資産118兆ドル(1京5000兆円弱)と比較するとがくぜんとする。
実に日本の7倍だ。
米国の国内総生産(GDP)は日本の4倍程度だから、金融資産の日米格差がいかに大きいか分かる。
日米の違いの一つは金融資産の構成にある。米国は株式や投資信託の比率が高いのに対し、わが国は相変わらず現預金が中心だ。
長年にわたって議論されてきたテーマだが、「貯蓄から投資へ」は遅々として進まず、現預金が過半を占める状態が続く。
理由は様々だ。
金融資産保有者は高齢者が中心で、資産を増やすより流動性を重視する傾向がある。
元本信仰が異常に根強いとの指摘もある。国民の金融リテラシーを高める必要性も指摘されている。
だが、金融リテラシーを高めれば株式投資は本当に促進されるだろうか。
金融リテラシーの基本原則の一つはリスクを取らなければリターンは得られない、というものだ。
米国の株式市場は見事にその原則を反映し、中長期的に金利を上回るリターンを上げている。
日本はどうか。
直近30年間で検証する限り、リスクばかり高くリターンは得られていない。
ファイナンス理論によれば株式市場のリターンは中長期的に上場企業の自己資本利益率(ROE)に収れんする。
わが国の株式市場のリターンが上がりにくいのは、上場企業の資本生産性の改善が進まないためだ。
経済協力開発機構(OECD)によれば日本企業の資本生産性や労働生産性は先進国で下位にある。
コーポレート・ガバナンスコードの受け入れを表明しているにもかかわらず、わが国の企業経営は成長や資本生産性より雇用が重視され、安定・存続に重点が置かれる傾向が強い。
これでは金融リテラシーを高めた投資家は、日本企業への投資に慎重にならざるを得ない。
貴重な経営資源である資本はイノベーションや価値創造力を求めて流れるからだ。
日本企業の経営の軸足が、安定・存続から成長・効率に移行しなければ投資マネーはますます海外企業に向かうことになるだろう。
2022年4月19日 日本経済新聞より