2020.07.27
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年金「100年安心」の誤解
「ゆとりある老後には2000万円程度の自己資金が必要」という内容の金融審議会の報告書が各方面から強い批判を浴び、事実上の撤回に追い込まれた。
この騒動は国民の大多数が「100年安心」の意味を誤解していたことを示すものである。
そもそも現在の年金制度は15年前に行われた制度改革を前提としている。
そこでは少子高齢化が進む中でも年金制度を維持できるように、年金給付額を徐々に削減していくマクロ経済スライドの仕組みが導入された。
この結果、年金制度の持続可能性が高まったことを「100年安心」と呼んだのである。
しかし、給付額を削減することで制度の持続性を高めたのだから、個々の高齢者の誰もが「100歳まで安心」とはならない。
今は年金だけでも何とか最低限の生活を確保できる人が多いが、経済の低成長が続けば将来世代の老後はさらに苦しくなっていく。
今回の金融審議会の報告は、こうした常識を再確認したものにすぎない。
ただ、多くの国民は「年金だけには頼れない」とうすうす気付いていたのではないか。
そこに2,000万円という具体的な数字を挙げて「不都合な真実」を突きつけたため、かえって強い反発を招いたのだろう。
多くの国民が人生100年時代に不安を抱いているとすれば、報告書だけ取り下げても不安が収まるはずはない。
長い老後という現実を見据えた制度設計をオープンな形で議論する必要がある。
日本経済新聞2020年7月10日より引用